POST AMBIENT: Sound Years

アンビエントという視点からオランダの音楽を探していた時に知った、世代もバックグラウンドも異なる2人の作曲家が、ジャーマン・エレクトロニクス周辺の復刻を手掛けるbureau Bのカタログに加わったことが、とても印象深いことでした。ひとりは、1925年ハールレム出身、著名なクラシック音楽一家に育ち、96年デン・ハーグで死去したJurriaan Andriessen(ユリアーン・アンドリーセン)。もうひとりは、1961年アムステルダムでオランダ人の母とイエメン出身の父との間に生まれた、現在ロッテルダムを拠点に活動するMichel Banabila(ミシェル・バナビラ)。ユトレヒト音楽院で父に作曲を学び、メシアンに師事したアンドリーセンは、元々アカデミックな現代音楽の世界で活躍していましたが、50歳代にさしかかった70年後半にPhilip GlassやWendy Carlosの影響から、自ら「トランス・シンフォニー」と呼ぶミニマルなシンセサイザー・ワークに開眼。先のbureau Bに取り上げられた「The Awakening Dream」は、Clusterや初期Kraftwerkにも通じるアナログでトリッピーなコズミック・サウンドを作り上げたシンセ期の代表作。プレアンビエントなアンドリーセンに対して、かたや次世代のバナビラはEno & ByrneやJon Hassellといったオリジネーターに直接的な影響を受けた、ポストパンク以降のオランダにおけるアンビエント・ミュージックの先覚者と見ることができます。
バナビラが同郷の映像作家Hero Wouters(ヘロ・ヴォウタス)のスタジオでアルバム制作に取り組みはじめたのが、彼が19才であった80年前後のこと。インドネシア、ガーナ、レバノンといった国々の民族音楽と、ジャズやミニマル・ミュージックといった要素をポストパンクの越境的感覚で再構築した「マリリ」、連作「発見された痕跡」などのソロ作を発表。Hanyo van Oosterom(ハンヨ・ファン・オーステロム)率いる第四世界音楽グループChiでの活動を経て、80年代末から90年代にかけては、トルコ、スリナム、ベルギーなどの多国籍フォーク・グループEast Meets Westや、トルコ出身のマルチ奏者Yaşar Saka(ヤシャール・シャカ)とのデュオなど、イエメン人の血を継ぐ自身の音楽的ルーツを探す旅のように、民族音楽志向をさらに広げた精力的なライブ活動を繰り広げ、ワールド・ミュージックの潮流の中で大きな評価を獲得していきました。その後トリップホップ〜クラブジャズから、グリッチ〜デジタル・ミニマリズム、実験的なエレクトロアコースティック、サティを思わせるピアニズムや室内楽に及ぶ多様なアプローチで、舞台芸術、ドキュメンタリー、映画、ビデオアートのための音楽を制作。初期のイマジナリーな民族性やミニマリズム的手法は、時代ごとに様相を変えながら、現在まで途絶えることなくバナビラの音楽の基幹になっていると思います。
この「Sound Years」は、過去12年の間に制作した既発アルバムから選ばれた13の楽曲からなるコンピレーション・アルバム。00年代以降の主要作を俯瞰しつつ、しかし単なるサンプラーではなく、遠く離れた広大無辺な宇宙空間と顕微鏡内のミクロな世界との間を漂泊するバナビラ特有の離郷的詩情を各作品から拾い集めるように、セルフミックスによって新しい物語へと昇華した、近年の最高作と呼ぶにふさわしい内容。昨年リリースされた初期編集盤「Early Works」と対比をなし、近年に初期作を発見した新しい層のリスナーにとっては数多くのバナビラ作品を辿るためのひとつの切り口となる(おそらく新作では最後の)ヴァイナル・フォーマットでリリースされたことにも少なからぬ意義を感じます。(Tomoyuki Fujii)  http://post-ambient.blogspot.nl/2017/05/128-michel-banabila-sound-years.html

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Post Ambient Blog: Sound Years, review by Tomyuki Fujii